ここまで幸せの定義とその評価方法、そして物事の本質や基準について述べてきました。
幸せとは「楽しみとしてやりたいテーマがあり実行していること」です。そのためにはテーマを考えて実行する精神的なゆとり、時間的な余裕、そしてお金が必要です。
その中でも一番気になるのは「お金」のことだと思います。お金があればさまざまなことが叶えられるので、多くの人は幸せの定義とは関係なく、生活を豊かにするために仕事に励み、少しでも収入が増えるように努力しています。特に働き盛りの人は、仕事のことを中心に考えて、日常生活は仕事の状況に合わせて調整していると思いますが、果たしてこのような考え方でよいのでしょうか。
仕事(お金)は生きていくために必要ですが、人生の目的ではないはずです。
本章では、「仕事」を幸せな生活を送るために必要なお金を稼ぐ「手段」と捉えて、どのように仕事に向き合えばよいか考えます。
仕事の本質を理解して、人生設計と合わせて考え、後半では自分に向いている仕事の探し方をご紹介します。
私は人事コンサルタントとして、企業の給与制度や人材育成体系を作っています(経営学の非常勤講師は週1回の登校で残りの日はすべてコンサルの仕事をしています)。
給与制度作成の仕事をしていると時折、困惑することがあります。それは、新しい給与制度を作成した後に、若い社員さんから「どうやったら高い給料をもらえるようになりますか」と質問されることです。その人は一生懸命仕事をして、給料を最大限アップしたいと考えているのです。
たとえば、その会社の役職別の目安となる年収が、「一般社員=約350万円」「主任=約500万円」「課長=約700万円」「部長=約1000万円」だとします。年収500万円、あるいは700万円ほしいということであれば、主任や課長になるように努力すればよいのですが、たとえば1200万円以上ほしい場合はどうすればよいでしょうか。
その答えは、次の3つしかありません。
言葉で言うのは簡単ですが、いずれもとても難しいことです。「無理です」と答えた方が正しいかもしれません。また、一般的に高い給料を得るためには苦労や努力が必要です。そのストレスに耐えられるかという精神面のことも無視できません。
仕事とお金と幸せについて、次のように考える人が多いのではないでしょうか。
しかし、この考え方は、次のような不確定要素があります。
「幸せな生活を送る」というゴールに対して、「一生懸命に仕事をする」というインプットだけではあまりに不確実なのです。
幸せの定義は「楽しみとしてやりたいテーマがあり実行していること」です。仕事のせいでこれが邪魔されてはいけません。楽しみとしてやりたいテーマを考え、実行する時間、そして実行するための収入を得られる仕事を選ぶことが重要なのです。「仕事に合った生活をする」のではなく、「楽しみとしてやりたいテーマを実行するための仕事」という考え方を基本とします。
楽しみとしてやりたいテーマを実行することを中心に置いて仕事や働き方を選ぶことが重要なのは先にも述べましたが、その具体的な方法を検討する前に現状把握として昨今の労働環境に関する変化について整理しましょう。
新型コロナウィルスの影響でリモートワークを実施する企業が増えてきました。コロナ以前も在宅勤務をしている人はいましたが、ZoomやTeamsなどの会議システムが広く普及したおかげで社内の会議だけではなく、お客様に対してもわざわざ出向かなくてもビジネスが成立するようになりました。移動時間などのことを考えるととても効率的です。
また、AIの発展もビジネスに大きな影響を及ぼしています。難しいと言われていた将棋や囲碁の一流棋士にAIが勝ったのが随分昔のように感じられます。そして、最近では小説や絵画、音楽などの創作分野でもAIが人間に負けない位のパフォーマンスを発揮しています。
ビジネスにおいてもAIをどのように有効活用するかが重要になっています。
労働に関する法律に着目すると、2019年(=大企業。中小企業は2020年)から「働き方改革」に関する取り組みがスタートしました。このことから分かることは、勤務時間は短く休日(有給休暇の取得奨励)は多くなる傾向にある。つまり、プライベートの時間が増えるということです。
そして、給与・評価制度を作るコンサルとして最近感じるのは、年功序列型の給与制度(職能給)からジョブ型の給与制度(職務給)へシフトしている会社が増えているということです。アメリカの企業のような明確なジョブ型は難しくても、新卒は全員同じ額からスタートして年齢とともに少しずつ上がるこれまでの制度から、部門別(業務の難易度別)に給与のレンジがあり、さらに役職などのマネジメントレベルを加味して給与が変動するという考え方にシフトしています。
このようなことを中心に最近のニュースなども含めて総合的に考えた結果、現在から数年後の働き方や注意点を次のようにイメージしました。
知識量ではAIにかなわないので何かの分野に特化した深い知識と経験、そして人間ならではのフィジカル面も加えて能力を発揮するということです。何かの専門家になることは簡単ではありませんが、少なくても自分の中で「〇〇が得意」というものを作ることが大切になるでしょう。
また、時代の流れに敏感になり柔軟性を持つことも重要になってきます。柔軟性を磨くためには、柔軟に行動することを意識する気持ちの問題と世の中に数多く存在する選択肢について知ることが重要になります。
3.仕事に必要な5つの能力
次は少し視点を変えて仕事に必要な基本的な能力について整理します。仕事に必要な基本能力を知り、自分の能力や希望と照らし合わせて、どのような職種が自分に合っているかのヒントとするのが狙いです。
あらゆる仕事は、次の5つの能力のどれか(あるいは複数)が必要になります。
(1)コミュニケーション能力
「分かりやすく伝えること」、「相手の話を理解すること」そして「相手から好感を得ること」の三つができていれば、コミュニケーション能力は高いと言えます。
分かりやすく伝える方法は、訓練と経験で比較的簡単に上達することができます。また、理解についても、相手の話やメッセージを注意深く受け取り、相手が置かれている状況などを考えることで上達します。難しいのは相手から好感を得ることです。
好感を得ている人にはさまざまなタイプがあります。性格なども大きく関係するので、何が正解であるかを一般論としてまとめるのは難しいのですが、次の二つことを考えてみると分かりやすいと思います。
つまり、良いお手本に習う、あるいは悪い例と違ったことをする、ということです。良い手本の真似をすることは受け入れやすいと思いますが、嫌いな人について考えることも重要です。
嫌いな人について考えると、いろいろな欠点が見えてきます。そして、その欠点を絶対にやらないように気を付ければよいのです。ちょっとしたことを二つ三つ意識するだけでも好感度はアップするはずです。
上手なコミュニケーションとは、たくさん話すことではありません。もちろん、相手を論破することでもありません。正しいことを言っても嫌われてしまったら意味がないからです。
相手にたくさん話をしてもらい、話をスムーズに進行させ、それでいて自分の考えもしっかり伝えるのが上手なコミュニケーション術です。
仕事においては、高いコミュニケーション能力を必要とする仕事もあれば、意思の疎通ができればよい、といった仕事もあります。自分のコミュニケーション能力や適性を把握したうえで仕事を選ぶことが大切です。
事務処理とは主にパソコンなどを使ったデスクワークのことです。決められた手順やフォーマットに従って行うのが一般的なので、一つ一つ深く考える必要はありません。標準化された業務に対するスピードと正確性が要求されます。
事務処理にも得意、不得意、あるいは好き嫌いがあります。好きであれば経験を積めば上達するので問題ありませんが、そうでない人にとっては、退屈な仕事です。
パソコンの前に座って、ある程度決められた手順で黙々と仕事をするよりも人と話しをしたい、外で仕事をしたいと考えている人は事務処理が少ない仕事を選ぶべきです。そして、最低限必要な事務仕事については「正確性」を重視して、慣れてきたところで少しずつ「スピード」を上げるのがよいでしょう。
どの仕事にもその仕事ならではの知識が必要です。たとえば、経理業務であれば簿記などについての知識、花屋さんであれば花についての知識、営業職であれば自社商品についての知識、といったように覚えなくてはならない専門知識があります。とくに専門性の高い仕事は覚える事もたくさんあるので大変な場合もあります。
一般的には自分がすでに持っている専門知識を活かす仕事に就くのが合理的ですが、やる気さえあれば、仕事をしながら専門知識を学ぶことも可能です。
どんな仕事でも少なからず創造力は必要になりますが、たとえば、企画を考えたり新しいアイデアや商品を考えたりする部署では日常的に創造力が要求されます。
ものごとについて深く考えることやアイデアを創出するのが苦手な人は、業務がある程度マニュアル化された仕事を選ぶべきです。しかしながら、何かを創造するする作業は、ある程度決められたプロセスの通り考えると誰でもできるという意見もあります。つまり、天から降りてくるようにふっと良いアイデアが浮かぶのではなく、一定の決められた思考(プロセス)を経ると必然的に答えにたどり着くということです。いずれにしても、新しいものを作り出したい気持ちと考える根気があるかどうかが適正の判断材料になります。
※拙著『その問題、自問自答で解決できます』(CCCメディアハウス)でもアイデア出しについてまとめましたので参考にしてください。
どんな仕事にも体力は必要です。しかし、その必要レベルは仕事によって違います。体力と言うと、重たいものと持つといった筋力的なことをイメージする人が多いと思いますが、たとえば人命を預かるような責任の重い仕事や長時間集中しなければならない仕事なども非常に疲れるので体力が必要になります。与えられた仕事を実行する力という意味では「行動力」と言い換えることもできます。
はじめは体力的につらいと感じても、慣れてしまえば適職になる場合もあります。慣れるまで耐えることができるかが分かれ目になりますが、自分の現在のレベル以上の体力が必要な仕事に就きたい場合は、仕事に対する情熱と継続する根性が必要です。
「コミュニケーション能力」「事務処理能力」「専門知識」「創造力」「体力」は、業界や職種によって必要なレベルが異なります。当然のことながらこれらの5つの能力すべてが秀でていれば総合的にポテンシャルが高い人材となりますが、必ずしもそうである必要はありません。自分が得意な能力と会社が必要としている能力がうまくかみ合えば、気持ちよく仕事をすることができます(適材適所の考え方です)。
ここで述べた5つの能力以外でも必要な能力はいろいろあるのではないか、と感じるかもしれません。たとえば「営業力」は、営業部にとって重要な能力になります。しかし、この5つの能力が備わっていれば上手な営業活動ができるはずです。つまり、5つの基本能力をそれぞれ必要に応じて成長させることによって、あらゆる仕事に必要な能力が網羅されるという考え方です。
最近ではあまり耳にしなくなりましたが、「ゼネラリスト」と「スペシャリスト」という分類方法があります。ゼネラリストは、幅広い知識を有してチームをしっかりマネジメントする人、そして、スペシャリストは、専門分野や特定の領域に特化した能力を有する人、というイメージです。
この分類を最近耳にしない理由は、スペシャリストは分かりやすいのですが、ゼネラリストはスペシャリストではない人という括り、つまり「その他大勢」という印象があるからだと思います。あるいは、ゼネラリストは総合力でしっかりマネジメントする人という意味では、マネジメントのスペシャリストであるとも言えます。
これからの時代は、何かのスペシャリストを目指すことがますます重要になります。「私は〇〇のスペシャリストです」と言えるようになるということです。広く浅くいろいろな仕事ができる人は「さまざまな部署やプロジェクトで臨機応変に対応できるスペシャリスト」を目指せばよいのです。
スペシャリストという言葉に抵抗がある場合は、「〇〇が上手、〇〇を良く知っている」からスタートするとよいでしょう。
など、いろいろあります。そして、これらのことが社内で認められ、仕事に活かすことができれば立派な「スペシャリスト」です。
理系の大学や専門学校を卒業した人は、スペシャリストとしての活躍をイメージしやすいですが、文系の人も自分に合ったテーマでスペシャリストになる努力をすることが大切です。また、学生時代にある程度の専門性を身に付けたとしても、真のスペシャリストになるためには経験(特に失敗の経験)が重要です。そして、いろいろな経験をするためには時間の経過が必要であることを理解して、焦らずに確実に成長してください。
4.失敗をしても許される人
ここまで仕事に必要な能力について述べてきました。これらの能力が高い人もいればそうでない人もいます。そして、多くの場合、能力が高い人は評価も高いです。しかし、ここで安心や落胆するのは早計です。「人は失敗する生き物である」ということを忘れてはいけません。そして、重要なのが失敗したときの態度なのです。
前述した仕事に必要な5つの能力の内の「コミュニケーション能力」に含まれますが、失敗をした時に周りがフォローしたくなる場合とそうでない場合、許される場合と厳しく追及される場合があります。
特に有能でプライドが高い人は、失敗の対処法(弁明など)を間違えて、立場が悪化するケースがあるので注意が必要です。詳細は、失敗の対処法や謝り方の書籍などに譲りますが、最もシンプルでお勧めの方法は「正直に謝る」ことです。
誰かが失敗をして正直に謝っている姿や困っている姿、無力な姿を見たら、きっと周囲は同情したり、挽回のために手伝ってくれたりします。弱いものを助けるという本能が働くからです。逆に、言い訳や自分の保身がにじみ出るような行動をとると周囲に悪い印象を与えます。
失敗に対する弁明の悪い例は、テレビのニュースなどで見たことがあると思います。本人が必至に言い訳をすればするほど、風当たりが厳しくなるのです。
人からの優しさは無料(ただ)です。これをもらった方が絶対に得です。そのためには自分を大きく見せるのではなく、正直に一生懸命に仕事をすることが大切です。恰好つける必要はありません。どんなに優秀な人でも失敗するのです。しかし、心配する必要はありません。仮に失敗をしても素直に頭を下げればよいのです。そして、周囲に助けを求めたらきっと誰かが手を差し伸べてくれるでしょう。
5.お薦めは将来性が高い優良企業の会社員
生徒たちに仕事についての話をして一歩現実を知ると、「先生のお薦めの働き方は何ですか」という質問がきます。もちろん人それぞれですが、私は「将来性が高い優良企業に入ること」と答えます。
やりたいことがはっきりしている人は、起業でも自由業でも自分の信じた道に向かって頑張ってほしいと思いますが、多くの生徒はそこまで確固たる夢はないようです。そうなると「将来性が高い優良企業に入ること」がお薦め、ということになります。イメージとしては、労働環境が良く、給与も高く、業績が伸びている会社です。もっとはっきり言うと、「成長の可能性が高い業界のリーディングカンパニー」です。もちろん、その会社で勤務しながら楽しみとしてやりたいテーマができるというのが前提になりますが、やはり優良企業はメリットがたくさんあります。
将来性が高い優良企業であれば、優秀な人が集まります。その人たちから学ぶことも多いです。高い専門性を身に付けるチャンスもたくさんあります。そして、優良企業での経験を通して、十分な専門性を身に付けた後は、独立でも起業でも選択肢の幅が広がります。
優良企業の新卒の入社試験(面接)では、自己PRや志望理由、入社したらやってみたいことなどをもっともらしく語りますが、皆の本音は「労働環境が良く、給与も高く、安定しているから入りたい」のはずです。でも、それでよいのです。入社できれば、まずは一安心。後は、その中で自分の力を発揮するように努力をしながら成長を目指します。
将来性が高い企業の多くは人気企業として知れ渡っているので、入るのは簡単ではありませんが、それだけの価値があるのです。
6.自分に向いている仕事の選び方
理想の職場は「成長の可能性が高い業界のリーディングカンパニー」だとしても、入るのは難しいです。運の要素もあります。
次は、もう少し現実的な視点で多くの人に当てはまる「自分に向いている仕事の選び方」について書いたので参考にしてください。これまで述べたように、大前提として「楽しみとしてやりたいテーマができること」を意識しますが、これを踏まえたうえで仕事を選ぶ際の具体的なポイントをご紹介します。
(1)会社選びのための必須項目と5つのチェックポイント
起業したい、あるいはやりたいことがはっきりしている人は、その夢や目標に向かって突き進めばよいのですが、「会社員」として働く場合は、自分に合った就職先について考える必要があります。
自分の興味のある業界や会社、職種について研究すること、つまり社会を知ることが重要になります。
就活生や転職者向けのサイトや情報誌から研究を進めていくと、さまざまな会社や職種に対して頭の中で「〇、×、△」の評価をすると思います。たとえば、この仕事は楽しそうだから〇、給与が低いので×、家から遠いので△、休日が少ないので×、社風が良さそうなので〇など、仕事や給与に関するテーマから通勤や福利厚生などのテーマまで、いろいろなことに対して「〇、×、△」が巡るはずです。そして、自分にとって重要な条件を中心に「〇、×、△」を総合的に考えて第一候補を決める人が多いと思います。
しかし、このような方法は効率的とは言えません。
それでは、どのようなアプローチ方法が効率的であるか。その答えは、あらかじめ検討すべき項目を決めておくことです。つまり、ある程度、業界や会社のことを理解したら、自分に合った会社選びのための「チェックポイント」を設定します。あらかじめチェックポイントを設定することにより、効率性だけではく、自分の考えが整理されて、自分に合った会社選びをより確かなものにすることができます。
私は、会社を選ぶときには「3つの必須項目」と「5つのチェックポイント」を考えるようにアドバイスしています。
まずはじめに、3つの必須項目は次の通りです。
一言でいうと社風と条件面のことです。社風は企業文化と表現を変えてもよいでしょう。
給与や休日などの条件面は、募集要項などに掲載しているはずなので確認は容易です。一般的なデータとして業界や企業別の年収一覧表などもたくさんあります。
難しいのは社風や企業文化を知ることです。たとえば経営理念などはホームページから確認することができますが、重要なのはその経営理念を実際に従業員が意識しているか、経営理念を中心とした一体感があるかどうかです。
実際に働いている人(OB/OG訪問)や退職した人に確認できればベストですが、それが難しい場合は、面接のときに聞くしかありません。
たとえば、「御社の経営理念である、〇〇(商品)を通して、社会と従業員を幸せにする。そして常にチャレンジ精神と柔軟性をもって事業を末永く継続できるようにする、に対して社員の皆さまで何か取り組みなどありますか」などと質問したらどうなるでしょうか。OB/OGや面接官が迷うことなく具体的な話をしてくれたら、それは真実でしょう。しかし、「みんな一致団結して頑張っている」というような曖昧な回答の場合は、その会社の社風や企業文化は見えてきません(見えてこないというだけでこの時点では良いともお悪いとも判断できません)。
このような場合を想定して、社風を知るために別の質問を用意することが重要になります。
たとえば次のようなことを確認して社風を知る手掛かりとします。
これらのことがある程度分かると会社の雰囲気をイメージすることができます。
そして、この中でも特に知っておきたいのが、教育や人材育成についてです。教育体制がしっかりしている会社は、従業員のことを大切にしている会社であると言えます。また良い教育環境が整っているということは社内のコミュニケーションも活発であることが予想できます。教育には時間がかかります。時間=お金、なので教育にお金をかける余裕のある会社であるとも言えます。このように教育環境を知ることは、社風を知るために最も有効な手がかりの一つなのです。
具体的なイメージとしては、納得の目標設定があり、その達成に向けて上司からのサポートや進捗確認(教育)がある。そして、これらが人事考課の一環として成果や能力を適切に評価して昇給や昇格に反映するようなしっかりとした制度がある。このような会社は、社員の働き甲斐や成長のことを考えている優良企業と言えるでしょう。
3つの必須項目が自分の希望(許容範囲)以上の場合、おそらく就職先として有力な候補になるはずです。さらに、次にご紹介する5つのチェックポイントは、仕事に対するやりがいや満足度に影響するのでこちらも事前にしっかり調査したいです。
①の「自分のやりたい仕事かできそうか」はとても重要なことなので、必須項目ではないかという疑問を抱いている人もいるかもしれません。もし「絶対に〇〇の仕事をやりたい」という場合は、必須項目として絞って考えればよいのですが、そこまでの強い希望はなく、社風や給与などの条件が良ければ仕事の内容はいろいろチャレンジしたい、ということであれば、さまざまな可能性を残した方が結果として自分に合った仕事(会社)を探すことができます。このようなことから、私は、やりたい仕事を必須項目ではなく、チェックポイントの一つとして区分しました。
注意が必要なのは、仕事の内容よりも給与を極端に重視している場合です。仮に、給与額を優先させて、やりたくない仕事に就いても長続きはしません。ストレスなどで病気になってしまうかもしれません。お金を貯める目的で我慢をしながら給与の高い仕事をするという考え方もありますが、その場合は、目標の貯蓄額と期限を設定します。ただしそれは一時的なものとして、長期的には自分がやりたいと感じる仕事に就くことが重要です。
仕事を通して成長できるか、ということも大切な要素です。人は成長することに喜びを感じます。また本能として向上心があります。いくら好きな業界や業種でも成長がない職場だと飽きてしまいます。
仕事の内容や責任が見る見る内にステップアップするような例は少ないですが、たとえば経験とともに仕事に対する質、量、スピードが少しずつ向上して、成長とともに仕事の内容もステップアップするというのが一般的なイメージです。そして給与も能力や成果に応じてステップアップします。この仕事に就いた場合の5年後、10年後の自分をイメージして成長している姿がイメージできたらOKという基準を設定するとよいでしょう。
「成長」は幸せのレベルを測定する指標の一つでもありますが、仕事の満足度を考えるうえでも大切な要素なのです。
仕事に対して達成感を得ることができるかどうかも仕事ライフを充実させるための大切な要素の一つです。「達成感」も「成長」と同様に幸せのレベルを測定する指標の一つです。
一般的に仕事の達成感は、目標をクリアした時、難しい仕事を成功させたとき、あるいは仲間やお客さまに感謝されたときに感じます。このときに「やったー」という達成感を得られない場合は、その仕事は適職ではないということになります。いつも同じような簡単な仕事や目的が不明確な仕事の場合は、達成感を得るのは難しいかもしれません。
どのような人と関わるか、というのは社内の組織体制、協力会社、お客さまが影響します。
一人で取り組む仕事なのか、あるいはプロジェクトチームの一員として仕事をするのか、若い人が多いのか、あるいは年配者との仕事が多いのかといった対人関係のことです。たとえば、協力会社やお客さまとの関わり方も仕事によってさまざまなので、希望がある場合は事前に調べておく必要があります。
人との関わりとは少し違いますが、体育会系の社風、あるいは和気あいあいとした社風といった全体的な雰囲気の違いもあるので、会社を選ぶ際は、自分の希望をあらかじめ考えておくことが重要です。
将来性のある仕事かどうかというのも、忘れずにチェックしたい項目の一つです。せっかく好きな仕事(会社)に巡り合えてもすぐに倒産や不採算部門のためリストラになってしまったら意味がありません。特に中小企業は基幹となるビジネスが衰退すると、方向転換が上手くいかず倒産する例がたくさんあります。そして、昨今ではビジネスの移り変わりがどんどん速くなっているように感じます。日頃から経済や世の中の動向を意識して、正しい情報に自分からアクセスすることが大切です。
将来性を見極めるのは難しいかもしれませんが、経営者がたとえば5年後の具体的なビジョンを発表しているような会社は、期待ができると思います。
5つのチェックポイントについては、ホームページなどの情報だけでは不十分です。OB/OG訪問などができる場合は、リアルな情報を聞くことができるので積極的に実施してください。何の手がかりもない場合は、面接のときに確認します。
面接官へたくさん質問すると印象が悪くなるのではと心配する人もいますが、問題ありません。会社(面接官)は都合の悪いことは答えたくないと考えますが、そのことに自信がある、しっかり取り組んでいる場合は、喜んで答えます。会話のキャッチボールに気を付けていれば、このような質問は仕事に対して真面目に考えているという好印象を与えるはずなので、自信を持って質問してください。
ここまで「3つの必須項目」と「5つのチェックポイント」について述べましたが、もし、これらの条件をすべてクリアした会社に入社できたらとてもラッキーだと言えるでしょう。多くの場合は、どこかの条件で妥協したり、よく分からないまま入社したりすることになるはずです。
重要なことは、直感的な「〇、×、△」ではなく、検討すべきポイントがあらかじめ整理されていると、効率よく納得の就職活動ができるということです。
(2)誰からの「ありがとう」が嬉しいか
それは、「ありがとう」の言葉を誰から聞いて嬉しいと思うかです。実は、これは2011年に出版した『社会人になる前に知っておきたいこと』(CCCメディアハウス)に書いたので、それをご紹介します。
お客さまからの「ありがとう」の言葉はとても嬉しいものです。
アンケートなどの「何のために仕事をしているのですか」という質問に対して、「お客さまの喜ぶ顔が見たいから」「ありがとうの言葉が聞きたいから」という答えが常に上位にランクされます。働く者にとって「ありがとう」の言葉は何よりの励みになるということです。しかし、中にはお客さまの「ありがとう」が嬉しくない場合があります。
実は私がそういう体験をしたことがありました。
私は大学を卒業して、リゾート開発会社に新入社員として入社しました。その会社の主な業務はリゾートホテルやゴルフ場、スキー場の運営でした。
2週間の導入研修を経て私は宣伝部へ配属になりました。宣伝部は第一希望だったので願いが叶ったということです。しかし、宣伝部の業務を行なうためには現場を知っておいた方が良いということで、1年間ホテルやゴルフ場、スキー場で現場研修を行ないました。
研修は接客が中心でしたが、私はもともと接客の仕事があまり好きではありませんでした。「新人なんだから何でも勉強だ」ということは分かっています。それでも人の好き嫌いは簡単には変わりません。
接客業が好きではないとはいえ、仕事なので決められた通り一生懸命働きました。ホテルのベルボーイのときは困った様子のお客さまのところへ笑顔で近づき手助けをしたらとても喜んでくれたということもありました。あるいは、スキー場の駐車場で雪に埋もれてなかなか出られない車の除雪作業(スコップで掘るという手作業)をやったときは、お客さまが感謝の印として後日プレゼントをいただいたということもありました。しかし、私はお客さまからの「ありがとう」の言葉にさほど喜びを感じませんでした。
そんな私でも「ありがとう」を嬉しく感じたことがありました。答えを先に言ってしまうと、それはお客さまではなく上司からの「ありがとう」でした。
研修も終盤に差しかかった頃、箱根のホテル研修中に支配人(その時の私の上司)から、お客さまが楽しめる「何か」を考えなさいというテーマが与えられました。
私は既に1週間ほど同ホテルでベルボーイをしていて、その時にお客さまからよく「どこか良いお散歩のコースはないかしら」と尋ねられていました。
そのことを思い出し、「お散歩ガイド(マップ)」を作りました。さらに、箱根に関連した本を集めてホテル内に「ミニ図書館」をつくりました。
ちょっとしたことでしたがお客さまからの反響も良く、喜んで利用してくれました。そして、支配人(上司)やホテルスタッフから「よくやった」とお褒めの言葉をいただきました。
お客さまの「ありがとう」にはあまり反応はしませんでしたが、支配人(上司)やホテルスタッフから褒められて「もっと頑張ろう」という気持ちになったのを覚えています。
このことを振り返ると、私は接客の仕事よりも、裏方で支えるような仕事の方が向いているということが言えます。お客さまからの「ありがとう」よりも、上司や仲間からの「ありがとう」のほう心地よく感じたのです。
適職を考える際は、さまざまな場面での「ありがとう」をどう感じるかが大きなバロメーターになります。「ありがとう」が喜びや原動力となるような仕事、それが天職であると言えるのです。
7.楽しみとしてやりたいテーマを中心とした人生設計
楽しみとしてやりたいテーマは、「ワクワク感」「達成感」「成長」「思い出」を指標として評価することができます。そして、人生の幸せレベルは、実行したすべてのテーマの合計点だと考えると、なるべく多くのテーマを実行したいものです。仕事のない休日だけ実行するのではなく、仕事が終わって寝るまでの時間に何か楽しいことができれば幸せレベルがアップします。
幸せのレベルアップをより確実なものにするためにお薦めなのが、幸せになるための「人生設計」を考えることです。一般的な人生設計は、就職・結婚・出産・住宅購入・定年後などの節目のイベントを中心に考えたり、生涯をかけて達成したいことを中心に考えたりすると思いますが、幸せになるための人生設計は、そこに楽しみとしてやりたいテーマを加えます。通常の人生設計へやりたいテーマを加筆した合体バージョンのイメージです。
幸せになるための人生設計を作るヒントとなるのが1章でも述べた、楽しみとしてやりたい「長期のテーマ」「中期のテーマ」「短期のテーマ」を考えることです。短期、中期のテーマは現実的な内容、長期のテーマは目標や夢に近い内容です。
短期のテーマで気に入ったことが中期、長期のテーマにつながることもあります。あるいは長期のテーマを達成するために中期、短期のテーマが必要な場合もあります。
あなたにはどのような「短期のテーマ」がありますか。
短期のテーマは、工夫次第で仕事が終わってから寝るまでのちょっとした時間にできるはずです。幸せの評価点は高くならないかもしれませんが、毎日少しずつでも幸せを感じられる時間があるのは嬉しいものです。そして、時間のある休日は楽しみレベルの高いテーマをじっくりエンジョイします。
このように、長期や中期のテーマだけでなく短期のテーマもどんどん人生設計に加筆すること、意識することが重要なのです。メモのような感じでもいいので、「楽しそうだな」「ちょっとやってみたい」と感じたことがあったら書き加えます。
街中で感じた「楽しそうだな」「ちょっとやってみたい」はすぐに忘れてしまいます。せっかくの楽しみとしてやりたいテーマの候補なので、忘れてしまってはもったいないです。人生設計にどんどんメモして、時間があるときに人生設計を見直してください。その人生設計はやりたいことや夢に溢れた、見ているだけでも楽しいものになるはずです。