「幸せの条件」について生徒たちに質問すると、「お金持ち」に関連する答えが一番多く、その後に健康や平和や自由、良好な人間関係などが続きます。
お金があれば、あらゆる望みを叶えることができるので私も幸せになるためには、お金が大いに関係していると思いますが、果たしてどうでしょうか。
この章では「幸せ」についてじっくり考えます。「幸せ」のような捉えるのが難しいテーマの定義を考え、定量評価すること、そして、実際に幸せになるための具体的なアプローチ方法を理解することがゴールです。
それでは、幸せの定義から考えていきましょう。
幸せの定義を考えるための最初のステップは、序章の「3.抽象的なものを言語化、定量評価する方法」で述べた通り、そのテーマ(もの)に対する事実をブレーンストーミングの要領で思いついた順にたくさん書くことです。
実際に考えてみた結果、次のような内容になりました。
「幸せ」とは、
次は、書いた言葉を分類、整理します。似ている内容を統括したり、多くの人に当てはまらないものや抽象的なものを削除したりする作業です。
いったいどれを削除してどれを残すか思案していると、やはり「お金」のパワーに圧倒されてしまいます。お金を無視して幸せを語ることはできないと感じます。そこで一度、幸せとお金についてじっくり考えてみることにしました。
本書では、次のように考えついたことを箇条書きでまとめる手法を多用しています。これは、頭の中で浮かんだことをメモ書きのようにすぐに書ける手軽さと、見やすいというメリットがあります。幸せの定義は、「お金」についての考えを整理した後に再開します。
【まとめ】
お金について考えてみると、お金は幸せに直結するような気もしますが、十分なお金を得ることは簡単ではないことが分かります。つまり、幸せの定義を仮に「お金持ち」とした場合、お金持ちになることが難しいのであまり現実的な定義ではないということです。また、果たして「お金持ち」が万人に当てはまる定義として成立するかも怪しいです。世の中には自分を不幸だと感じている資産家もいるからです。
ここで重要になるのが「お金持ち」の先にあるものです。なぜ、お金持ちになりたいのか。多くの人は「好きなことができるから」と答えるはずです。つまり、お金は持っているだけでは意味がなく、それを使って幸せを感じることが重要なのです。
お金持ちになることは簡単ではありません。また、お金は目的ではなく、好きなことをするための手段です。つまり、お金の先には「好きなことをする」があります。そして、好きなことをするためには、お金だけでなく、健康や自由も必要になってくるでしょう。さらには、好きなこと(やりたいこと)があり、それを楽しいと感じることも重要です。
ここまで前述のブレーンストーミング的に考えた「幸せとは」のリストから「お金持ち」が気になり、幸せとお金の関係について考えました。
次に「お金持ち」以外の言葉に目を向けると「健康」や「良好な人間関係」などがリストにありますが、幸せの定義にするには範囲が狭いので思い切って削除します。
他の言葉についても、一つひとつの関連やさまざまな場面のことを想定して考えた結果、「楽しみがあること」が最も幸せと直結して、多くの人に当てはまり、分かりやすいキーワードであると私は結論付けました。
そして、幸せとは「楽しみとしてやりたいテーマがあり実行していること」と定義しました。
次は、この定義の検証の意味も含めて、「楽しみとしてやりたいテーマ」について深く考えます。もし、作成した定義に矛盾点や改善すべき点があれば修正すればよいのです。
次のように「楽しみとしてやりたいテーマ」について箇条書きでまとめました。
このように、「楽しみとしてやりたいテーマ」について深く考えた結果、この定義の具体的なイメージや必要条件などが見えてきたと思います。もし、定義に矛盾点や改善すべき点を見つけたら納得がいくまで修正します。
いろいろと検討した結果、私はこの定義(文言)のまま進めることにしました。
そして、ここで一区切りとなります。
私は、幸せとは「楽しみとしてやりたいテーマがあり実行していること」と定義しました。
次は、幸せの測り方について考えます。
何かを評価するためには、評価基準を考える必要があります。多くの人が納得する普遍的な基準を設定することができれば、幸せレベルを数値化できます。また、自分の幸せレベルが数字で分かれば、幸せな人生を送るための具体的な方法が見えてくるはずです。
それでは、「楽しみとしてやりたいテーマ」を測るためには、どのような要素(基準)が適切であるか考えていきましょう。まずは、楽しみとしてやりたいテーマを実行する前、そして、実行後までの経過と得られる喜びについて次のように考えました。
(1)楽しみとしてやりたいテーマを実行しているときは誰でも楽しい(幸せな)気持ちになっている。ただし、テーマによって楽しさのレベルは違う。 「楽しみとしてやりたいテーマ」のレベルを測るための評価基準については、まず、テーマを実行する前の「ワクワク感」と実行後の「思い出」は、そのテーマを測る指標として重要だと考えました。つまり、テーマを開始する前に、どのくらいワクワクしたか、終わった後にどのくらい良い思い出として残ったかが重要な評価基準であるということです。
さらに、テーマを実行しているときに感じる喜びについての評価基準は、(3)でリストアップしたものから評価の指標として相応しいものを検討します。
(3)でリストアップした内容の類似性などを検討していると、ある言葉が浮かびました。それは「達成感」です。上記の「褒められたとき」「欲望が満たされたとき」「好奇心が満たされたとき」「想定通り物事が進んだとき」は、どれも結果として達成感を得ることができます。つまり、これらの項目は「達成感」で表現できるということです。
さらに、この中で外せないと感じたのが「成長」です。「達成感」は何かを成し遂げた時の瞬間的なイメージに対して、「成長」は継続的な一歩一歩の積み重ねです。また、成長に対して喜びを感じるのは人間の本能的なものでもあります。
このようなことから、「達成感」と「成長」も楽しみとしてやりたいテーマを実行したことによって得られる幸せに直結する重要な要素だと考え、評価基準とします。
これで評価基準は「ワクワク感」「達成感」「成長」「思い出」の4つになりました。もっと何か適切なものはないか考えましたが、評価基準が多すぎると複雑になってしまいます。私はこの4つを楽しみとしてやりたいテーマを評価する基準としました。この後、実践を繰り返しながら、必要に応じて追加や変更することもできるので、一旦納得したら前に進めることが重要です。
評価基準が決まったら、次は定量的に評価する方法を考えます。
この作業は簡単です。次のように評価基準である「ワクワク感」「達成感」「成長」「思い出」のレベルを数値化すればよいのです。
採点するときは、次のことを意識するとやりやすくなります。これらは実際に私が実行した「楽しみとしてやりたいテーマ」の評価(採点)をして気づいたことです。
それでは、具体例で理解を深めましょう。要点は次の通りです。
テーマの例(1) 「美味しいケーキを食べた」
前から食べたいと思っていた有名店のケーキを1時間ならんで買うことができた。これまで食べたケーキの中でもベストに3に入るくらい美味しかった。
・「ワクワク感」6点
・「達成感」6点
・「成長」3点
・「思い出」6点
合計21点(52.5点)
テーマの例(2) 「趣味の城めぐり。前から行きたかった名城を訪れた」
10年前から全国の城めぐりを趣味としているなか、念願の遠方にある名城に初めて訪れることができた。
・「ワクワク感」8点
・「達成感」8点
・「成長」7点
・「思い出」8点
合計31点(77.5点)
テーマの例(3) 「新婚旅行に行った」
計画段階からワクワクした。そして最高の思い出となる旅行ができた。
・「ワクワク感」10点
・「達成感」7点
・「成長」6点
・「思い出」10点
合計33点(82.5点)
テーマの例(4) 「柔道の全国大会で優勝した」
中学生のときから6年間、柔道部でがんばった結果、高校生チャンピオンになることができた。
・「ワクワク感」6点
・「達成感」9点
・「成長」9点
・「思い出」10点
合計34点(85.0点)
テーマの例(5) 「二十歳からの夢(目標)だったバーを開業した」
10年間、飲食店で働きながらお金を貯めた。そして、ようやく念願だったウイスキーバーを開業することができた。
・「ワクワク感」8点
・「達成感」8点
・「成長」8点
・「思い出」8点
合計32点(80.0点)
4つの指標である「ワクワク感」「達成感」「成長」「思い出」はどれも大切ですが、その中でも「成長」が高得点になるテーマは、幸せレベル(合計点)が高くなる傾向にあります。
楽しみとしてやるテーマであれば「ワクワク感」と「思い出」は5点(普通)以下にはなりにくいです。楽しいことをやる前はワクワクして、やり終わったら良い思い出になるのは自然なことだからです。一方で「成長」については、楽しいから成長も伴うとは限りません。たとえばコンサートなどのイベントは楽しくても、成長の評価点はあまり高くならないはずです。
成長を感じることはとても幸せなことです。人間はあらゆることに対して日々成長したいと願っていると言っても過言ではないでしょう。今までできなかったことができるようになった時の喜びや、知らなかった知識を得たときの充実感を思い出してもらえれば分かると思います。
そういう意味では、「成長」を意識してテーマを選ぶ(実践する)ことが幸せレベルをアップさせるコツの一つになります。
ここまで「幸せの定義」を考えて評価するために、幸せについていろいろと考えてきました。そして、幸せについて考えていると自然と「不幸」についても気づくことがありました。
(1)不幸な時、その不幸に応じて幸せレベルを減点する必要はない。さらに、不幸について考えを進めていくと、すべての不幸は2種類に分類することができると気づきました。不幸になることを防ぐ、あるいは、不幸になったときに冷静に対応することの手助けになるので、ぜひ参考にしてください。
(1)不幸なできごとの結果として「精神的なショック」と「金銭的なショック」がある。【まとめ】
世の中には数多くの不幸(ショック)が存在します。そして、不幸の数だけ立ち直った例があると言っても過言ではありません。つまり、自分が受けた不幸は珍しいものではく、過去には同じような不幸を大勢の人が経験しているのです。そして、これまでに多くの人が不幸から立ち直った経験則の中に、自分が直面している不幸の対処法もあるはずです。
不幸(ショック)を受けたとしても、慌てることはありません。さまざまな問題別に数多くの専門家がいます。書物やインターネットの情報を参考にすることもできます。あらゆる問題に対する答えを比較的簡単に手に入れることができるのです。
自分の手に負えない問題に直面した時や、つらい精神状態になったときは、一人で思い悩まずに、外部に解決の糸口を見つけてください。不幸を放っておいてはいけません。前に進むことが解決の第一歩です。
基本的人権が認められている世の中では、罪などを犯さない限り、誰もが自由に生活することができます。どんなにつらいことがあっても生きてさえいれば、復活のチャンスはあります。つまり、どんなに大きな不幸でも底はあるので、底に達したと感じたら後は上昇することを信じればよいのです。
不幸とまではいかなくても、日常生活では「イライラ」や「不安」に思うことがたくさんあります。不幸について考えた延長で、「イライラ」や「不安」についても次のようにまとめました。
(1)日常生活でイライラや不安が多いと、幸せな生活とは言えない。【まとめ】
人は、想定していることや望んでいることと違った状況のときにイライラやモヤモヤした気持ちになります。そして、イライラやモヤモヤはストレスにつながります。ストレスはあらゆる病の素なので、イライラやモヤモヤは体に悪いと言えます。しかし、イライラやモヤモヤをしないようにコントロールするのは難しいことです。人は嫌なことがあると、勝手にイライラしてしまうからのです。
たとえば、電車の遅延が原因でイライラしている場合であれば、正常に運転が開始されれば、イライラは解消されると思います。もし、遅延している電車を待っているときに、たまたま隣にいる知らない人から不愉快なことをされたら、イライラレベルは倍増します。さらに、相手が悪いはずなのに、周囲からは自分が加害者のような目で見られたら、最悪の気分になります。
電車の遅延だけであれば大したことはありませんが、嫌なことが複数重なるとイライラ感は2倍にも3倍にも膨れ上がり、感じている時間も長くなります。
イライラを解消するためには自分自身が納得するしかありません。仮にイライラの原因を作った相手が謝っても自分が納得できなければ、イライラは治まりません。時間の経過とともに薄らぐことはありますが、自分の意思で直ちに気持ちをコントロールするのは難しいことです。
そんな面倒なイライラを解消(軽減)するためには、因果関係を冷静に考えることが一番です。今のイライラの気持ちの原因を特定するのです。
先ほどの例であれば、イライラの原因は「電車の遅延」「不愉快な人」「周囲の誤解」の3つです。原因が特定できたら、自分が納得するための対策を考えます。そして、一つ一つを「イライラしても仕方のない済んだ出来事」として処理するのです。
たとえば、次のように考えます。
日常的にイライラを多く感じている人は、イライラの元となるハプニングが多く、しかも一つ一つが処理されずに残ってしまっている可能性があります。
「電車の遅延」、「不愉快な人」、「周囲の誤解」だけで済めばよいのですが、たとえば、帰宅すると、また別のイライラに遭遇したとします。こうなると先のイライラとごちゃごちゃになって収拾がつかない状態になります。
帰宅をすると次のようなことが待っていたとします。
どれも簡単に答えができます。もちろん、買い物へ行ったり、子供へ注意をしたり、上手に断る文章を考えたり、クレジット会社へ連絡するといった手間はかかりますが、これらは一定の確率で誰にでも起こり得る人生の負のイベントを対処するために必要な手間だと考えればいいのです。しっかり対処すれば、きっとイライラ感は軽減され、「最悪の一日だった」という思いをそんなに引きずらずに忘れることができるはずです。イライラを自分の中で消化して、たとえば友人に「おもしろい話」として話すことができたら、完全に吹っ切れたと言えるでしょう。
嫌なことを放っておいてもイライラ感はなかなか軽減しません。仮に、LINEの面倒な返事を後回しにすると、イライラした気持ちを引きずることになります。
イライラを感じたら、その原因を一つ一つ検討して因果関係を明らかにしてください。多くの場合はイライラの原因が分かればイライラ感は軽減されます。そして対策が必要な場合は、素早く実行することによって、けりをつけることができるのです。
ここまで、幸せの定義と測定方法、そして、不幸やイライラについて述べてきました。
最後は、実際に幸せになるために意識したいことをまとめました。
【まとめ】
感受性を高めるためには、「なぜ? なるほど! すごいね!」を意識します。
日頃からさまざまなものに対して「なぜ?」と興味を持ちます。そして「なぜ?」の答えを考えたり調べたりします。
答えが分かったら「なるほど!」と素直に感心する気持ちが大切です。自分が知らなかったことに対する答えが分かったのですから、「ふーん」ではなく「なるほど!」と好意的に思ってください。
歳をとっても感受性が高いと若々しく映ります。何か楽しいことや知らない事を探す気持ちが若さの秘訣なのだと思います。わざわざ「探す」までしなくても、受け入れる姿勢があるだけでも感受性を刺激してよい影響をもたらすはずです。