一般的な経営学では企業の経営に関することを学びます。主なキーワードを挙げると、マネジメント、マーケティング、会社、株式、組織、リーダーシップ、経営戦略、生産管理、M&A、労働に関する法律、資金調達など、ビジネスに関するあらゆることがテーマになります。
経営学を理解するとさまざまな企業が行っている経営戦略について分かってきます。しかし、経営学をしっかり学んだからと言って実践での成功が約束された訳ではありません。経営学で学ぶ理論をどんなに細かく丁寧に学んだとしても実践で起こりえる可能性をすべて網羅することはできないからです。
経営の実践で成功するためには経営学の理論だけではなく、臨機応変に行動(判断)する能力も重要になってきます。マニュアルは理解しつつもマニュアルに載ってないことが起きても対応できるようにするということです。
それでは、臨機応変に行動するためには何が必要でしょうか。
私は「本質を知ること」がこの答えだと考えています。そのテーマの本質を理解していれば、トラブルや問題にぶつかったとしても自分で解決の糸口を探すことができます。つまり、マニュアルを超えることができるのです。
それでは、経営に関係する「物事の本質」とは何でしょうか。
経営は、人のために、人が行います。私たち人間がどのような思考や行動をとるか、さらに私たちを取り巻く社会はどのようなものなのかを知ることが経営学で学ぶすべてのテーマの礎になります。つまり、経営学を理解するためには、人間の本質、社会の本質、仕事の本質などを理解することがとても重要になります。物事に対して本質的なアプローチができると実践での成功の可能性がぐんと高まるのです。
私の授業では「物事の本質」のほかにもう一つ重要視しているものがあります。それは「幸せな人生を送ること」です。
幸せについて考えることを授業に取り入れた理由は次の二つです。
・誰もが幸せになりたいと考えている。
・言語化、定量評価が難しい。
誰もが幸せになりたいと考えているということは、人生の目的や目標が「幸せになること」あるいは「幸せな生活を送ること」であると言ってもよいでしょう。しかし、多くの人は幸せに対する明確なビジョンや行動計画を持っていないよう思えます。これは、企業で例えるならば、目標はあるが、その目標の明確な意味やゴールが分からない、ということになります。
会社の目標が曖昧、あるいは分かりづらい場合、達成の可能性は低くなります。達成以前に達成したかどうかの検証ができません。逆に目標がシャープでアウトプットや評価の基準が明確であれば目標達成へのアプローチが容易になり、評価や振り返りができます。
このように考えると、人生の目標が「幸せな生活を送ること」だとした場合、「幸せ」についてしっかり理解することがいかに重要であるかが分かります。
また、「幸せ」は言語化や定量評価が難しいです。ビジネスでは、物事をしっかり表現(言語化)して共有することを求められる場面が多々あります。さらに、結果の検証や今後の改善のために定量評価することも重要です。この訓練の一つとして、捉えるのが難しい「幸せ」の定義を考え、定量評価することにチャレンジするのです。
ビジネスの多くは人を幸せにすることに関係しています。幸せの本質を知ることはビジネスを成功させるために絶対に知っておきたいことなのです。
本書では、「幸せ」以外にもさまざまなキーワードの本質について考えながらストーリーを展開しています。そこで必要になるのが、抽象的なテーマ(言葉)の本質に迫り、言語化することです。
シンプルでオーソドックスな方法だと思いますが、本書のテーマの多くは、次のような手順で頭の整理をしながら、そのものの本質や定義を導き出しました。
①そのテーマ(もの)に対する事実を思いついた順にたくさん書く(ブレーンストーミングの要領)。
→ ○○(そのテーマ)とは××(特徴や事実)である。でまとめると分かりやすいです。
② 書いた言葉(××)を分類、整理する。多くの人に当てはまらないものや抽象的なものは削除する。
→ そのテーマ(もの)の本質や目的を考えながら整理します。
③ ②で整理した結果、キーワード(はずせない単語)をいくつか選ぶ。
④ ③で選んだキーワード(単語)をつなげるように文章化する。
→ 定義を作る場合は、定義として成立するように、簡潔な文章にまとめます。
さらに、作成した定義の結果や成果を測定できることが望ましいです。測定できると評価が容易になるからです。
その定義の結果がお金や大きさ、スピード、温度など、数字ですぐに答えが出る場合は問題ないのですが、たとえば「幸せ」のように直接測るのが難しいような場合は、定義を考えた後に分かりやすい評価の基準を設定する必要があります。
数字で表現することが難しい評価の基準を設定するポイントは、その定義が成功(最大の効果を発揮)するために必要な要素(基準)を考えることです。具体的な方法は、前述の①の要領で、いろいろと考えを出しながら絞っていきます。そして、評価の基準が決まればその達成レベルを点数で表すことができ、評価や比較が容易になります。