人生は、さまざまな「出会い」から刺激を受け、それが転機となり未来が形作られます。あなたにもこれまで多くの「出会い」があったはずです。友人や先生、あるいは仕事の関係者といった「人」との出会いだけではなく「経験や情報などからも多くの刺激を受けたことでしょう。
53年の人生を振り返ると私にもさまざまな出会いや転機がありました。
父親の仕事の関係で小学1年生の時にポルトガル(リスボン)へ引っ越すことになり、全く英語ができない状態でインターナショナルスクールに入学したのは最初の転機でした。数か月間は学校へ行くのが嫌で毎日泣きべそをかいていたのを覚えています。しかし、子供は順応が早いもので徐々に言葉を覚えて友達ができると少しずつ学校が楽しくなってきました。新しい環境での出会いや経験は私の人格形成に大きな影響を与えました。
自由なスタイルのインターナショナルスクールでの生活から、6年生の時にまた父親の仕事の都合で日本へ帰国することになりました。今度は規律の厳しい地元(千葉県流山市)の中学です。当時でも時代遅れな「男子は全員丸坊主」などの校則があり、最初は戸惑うことばかり。それでもクラスメイトや部活の仲間のお陰で、校則は厳しくても、さまざまな出会いや経験を通して確実に成長をした3年間でした。
そして、早稲田大学本庄高等学院で過ごした3年間は、その後の人生の礎となるような出会いや刺激を最も多く受けたと思います。
寮生活、受験勉強がない、豊かな自然の中での暮らし、個性あふれる教員、自由な校風、男子校(現在は共学)。人間関係は濃密で毎日が修学旅行のようでした。
高校生活の中でたくさんの出会いと刺激を受けることができたのは、寮生活の影響が大きかったと思います。寮は個室でしたが、食事や風呂などはすべて友人達と一緒です。当然、彼らと過ごす時間が圧倒的に長くなります。時間はたっぷりあるので、将来の夢や自分の好きなことをこれでもかというくらい話します。そして、互いに影響を受けて、さまざまなことに興味を持ちチャレンジしました。
最近は(大人になったせいか)新しいことを始めるのは少し面倒な気持ちになりますが、当時は何も考えずに少し興味がわけばすぐに行動に移していました。楽しみのテーマがたくさんあったのです。
楽しい反面、どんなに気の合う友人でもずーっと一緒にいると飽きてしまうことも経験しました。そして、少し距離を置くのですが、しばらくするとやっぱりその友人とは気が合うということを再確認する。このようなことを繰り返していました。
さまざまな「出会い」を通じて刺激を受け、自分では気づいてなかった自分自身の性格や人間の本質的なことを学んだ3年間は、今でも私の大きな支えになっています。
そんな母校で2019年から非常勤講師として3年生の選択科目の一つである「経営学入門」を教える機会に恵まれました。私はもともと教員ではなく、人事(給与・評価制度、人材育成)を専門とするコンサルタントとして仕事をしてきたので、初めて教壇に立つということになります。
実は、もし第二の人生があったら教員になってみたいと夢見ていたので、このオファーはとても嬉しいものでした。しかし、教員とビジネスマンは違います。しっかりとした準備と心構えが必要であることは言うまでもありません。
どのような授業にすればよいのか検討するために、これまで受けてきたさまざまな授業について振り返ってみました。そして、好印象として残っているのは「楽しい授業」と「ためになる授業」の二つのパターンがあることに気づきました。
楽しい授業とは、先生の話に引き込まれて時間が過ぎるのが早く感じる授業です。ためになる授業とは、その先を考えてみたくなるような授業、楽しいという感覚よりも哲学者のように深く考えたくなるような授業といった感じです。
後輩たちには「ためになる授業」を届けたいと考えました。同校の教育理念の一つである『自ら学び、自ら問う』の通り、一方的に情報を発信するのではなく、授業が終わった後もその内容を自分なりに再確認して、応用する、矛盾点を発見する、あるいは実生活でも使えるようになってほしいということです。
ここまで考えをまとめるのには、そう時間はかかりませんでした。
次に考えたのは、経営学入門という授業を通して生徒たちがその内容を自分なりに解釈して実生活や将来のビジネスで活かせるようにするためにはどのような授業にすればよいか(授業の具体的なスタイルや内容)です。
しばらくの間、さまざまな思いを巡らせているうちに、これまで仕事で関係した優秀な経営者たちのことが頭をよぎりました。彼らはどれほど「経営学」について知っているか。あるいは、成功者としての共通点はなにか。
私がこれまで仕事で関係した経営者は、自らビジネスを立ち上げた中小企業の社長さんばかりです。経営学で学ぶさまざまなテーマについても理解していると思いますが、彼らは理論以上に経験を通して本質を見抜く力が優れているように感じます。あと、もう一つ特長をあげるとすれば、優秀な経営者は仕事も頑張りますが、趣味や自分の時間も大切にしているということです。
仕事とプライベートの両立が上手にできていて幸せそうな経営者と仕事をすると、こっちもプラス思考で頑張ろうという気持ちになります。
私の経営学入門の授業は、このように成功している経営者のことを意識しながら構成しようと決めました。優秀な経営者たちのように「物事の本質」と「幸せな人生」について知ることは、結果として経営学の内容が身に付き、しかも実践の場でも大いに役立つはずです。
このような考えに基づき学校に提出するシラバスは、経営学の基本的な理論のほかに「物事の本質」と「幸せな人生」について考えることも加えました。
本書では、経営学入門の授業で教えた「物事の本質」と「幸せな人生」の部分を中心にまとめました。これからビジネスパーソンになる人だけではなく、ビジネスパーソンとして少しつまずいている人、あるいは、仕事は慣れてきたので次はプライベートを充実させたいと考えている人に向けて書きました。一般的な経営学の教科書にはない、新しい視点の経営学を楽しんでください。
2023年5月8日
原岡 修吾